1、はじめに
予防と健康管理ブロックの授業ビデオで見たアスベストと中皮腫について考察し、学生それぞれが選択したキーワードによる論文の検索の仕方を学び、内容を考察する。
2、選んだキーワード
アスベスト(石綿) 、建築物
3、選んだ論文の内容と概略
これまでに極めて大量のアスベストが輸入され、その九割以上が建築材として使用されている。そのため、順次耐用年数を迎える建物の修理、補修、解体に際して作業者のアスベスト暴露は、今後巣十年にわたって避けることのできない深刻な事態が残されているといわざるをえない。のみならず、痛みのすすんだ建築物に住居する住人のアスベストばくろも軽視することはできないだろう。
建設作業者の石綿暴露指標としての胸膜肥厚斑の推移
アスベスト暴露指標と考えられる胸膜肥厚斑の有所見者率は、アスベスト輸入量と建築材への利用量の増大を反映し、1987〜97年の約10年の間に、建設作業者全体で0.82%〜1.62%へと増加していた。職種別で見ると、瓦工・軽天工では5.00%と第一期・第二期調査とで有所見者率に差は認められなかったのに対し、他の職種では有所見者率の増加が認められ、特に大工では0.99%〜2.46%へと、第一次調査の約2.5倍もの増加が認められた。
胸膜肥厚斑は石綿暴露開始後15年以上経過してから臨床的に認められる例が出現してくると言われている。したがって、石綿の輸入量の推移より15年以上経過してから顕在化することから、石綿の輸入・使用などを禁止しても、問題が深刻化するのはこれからなのである。
ところで、臨床的に胸膜肥厚斑は胸部レントゲンないし胸部CTで確認する。ところが、レントゲン写真で診断できる胸膜肥厚斑はごく一部にすぎない。剖検で診断することが重要である。
そこで、剖検による建設労働者の胸膜肥厚斑の出現状況を検討してみた。これまでに筆者が剖検した建設作業者は35例(平均62.0歳)であった。そのうち30例、実に85.7%に典型的な胸膜肥厚斑を確認している。生前に撮影した胸部レントゲン写真で胸膜肥厚斑を認めなかった例は30例であったが、そのうち25例(83.3%)に剖検で胸膜肥厚斑を認めた。
職種別では、大工が10例中8例に認められ、剖検を実施した配管工4例、タイル工3例、ハツリ工3例、空調・保温工2例、電工2例、石綿吹き付け1例、塗装工1例の全例に典型的な胸膜肥厚斑を認めた。また、鉄工は3例中2例に胸膜肥厚斑を認めたが、石工および木工の各1例には胸膜肥厚斑を認めなかった。
このように、石綿暴露による生体反応である胸膜肥厚斑はほとんどの建設作業者に発症するほどに石綿の汚染が進行してしまっているのが現状である。
建設作業者の肺癌例の検討
石綿が強い発癌性を有することから、石綿暴露作業者の肺癌は一定の条件が満たされれば石綿関連肺癌と判断される。石綿暴露作業10年以上で、石綿肺、レントゲンでの胸膜肥厚斑、剖検での胸膜肥厚斑の何れかを認めることが石綿関連肺癌として考える際の主要な認定基準とされている。
これまでわれわれは首都圏の建設作業者の肺癌例について石綿関連疾患か否かの検討を加えてきた。検討した肺癌例は77例であった。平均年齢は61.9歳と、一般的な肺癌の好発年齢より10歳以上若いのが特徴であった。
77例のうち石綿肺所見を認めた例は22例で、29%であった。また、胸部レントゲン写真(背腹像)で胸膜肥厚斑を認めたのは24例31%にも達しており、胸部のCTにて胸膜肥厚斑を認めた例葉44例、57%であった。換言すれば、建設作業者の肺癌の約6割が、石綿関連肺癌であるとの臨床所見を有しているということである。
職種別では、空調、保温や・ハツリで石綿肺所見を有する例が7割を超えているのに対し、大工や左官、タイル、配管工では石綿肺所見は2割前後で、相対的に胸膜肥厚斑の有所見者率が高く、50%〜60%ほどの所見であった。これに、臨床的には胸膜肥厚斑を認めないものの、剖検で確認された例は全体で10例も存在していた。
以上の成績から、検討した建設作業者の肺癌77例のうち57例74%が石綿関連肺癌としての所見を示したいたのである。
これほどまでに、建設作業者への石綿汚染が浸透し実際に肺癌を多発させるまでにしてしまったのである。そして、憂うべきは、剖検のみで胸膜肥厚斑を確認した例は別として、臨床的に明確な所見を呈しているにもかかわらず、検討した肺癌例の全例が肺がんの治療を受けている専門の医療機関で石綿関連肺癌と診断されたことはなく、石綿暴露作業を中心とした職歴の聴取を受けたこともなく、喫煙歴のみを詳細に聞かれたと述べていることである。すなわち、建設作業の中に石綿関連肺癌例が多発しているにもかかわらず、きちんと診断されないために問題の深刻さが明らかにならないまま被害のみが進行しているのが実態なのである。
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建設作業者では肺癌のみならず悪性中皮腫の発症も目立っており、東京、神奈川、埼玉の建設国保に加入する組合員を対象とした疫学調査で、2.13と有意に増加している。また、肺癌のPMRも1.23と有意に増加している。こうした所見は、神奈川県建設国保に加入する組員を対象とした、コホート研究でも確認されている。
すなわち、建設作業者の間にアスベストの汚染が広範囲に広がり、アスベスト曝露による健康障害が、確実に、かつ、きわめて深刻に表れていることが臨床的にも疫学的にも明確になったといえる。こうした現状は、曝露から発症までに長時間要すると言う石綿による被害の特徴から、石綿の規制をすれば問題が解決するわけではないことを銘記する必要がある。むしろ、現時点は問題がやっと顕在化しつつある時期と考えるべきであろう。これからが、より一層深刻な状況が顕かになると予想される。
規制を徹底させるとともに、石綿関連疾患の被災者を発掘し救済する行動が強く求められているのである。
戦前から戦中、そして戦後にかけてのアスベスト(石綿)の使用状況の変化が示すところによれば、わが国では高度経済成長期にきわめて有用な建築資材として多く使われたことが特徴的である。また、アメリカやイギリス、フランスなど諸外国での対応に比較してわが国の行政対応が遅れていたことが問題として指摘されている。
アスベストは建築物に多く使用され、製造作業者のみならず工場周辺の住民、建築現場の作業者、建築物利用者(居住民や学童など)多くの人々が影響を受ける。
わが国では、1970,80年代がアスベスト使用のピークであり、今後10〜20年後にさらに多くの中皮腫の発症が予測されている。以上のように、アスベストに起因する中皮腫は戦後における効率優先の経済開発によって生じた問題として位置づけることができる。
ILOの勧告から19年経過した平成17年(2005)には、アスベストについて、わが国では大きな社会問題が起きた。そして、ここから新たな現代の社会的問題が再び起きてくることになった。
平成17年(2005)6月30日の読売新聞では、「大手機械メーカー「クボタ」(本社・
このアスベストの問題は、わが国だけで起きているわけではない。もちろん多くの国で起きている。ただその対応の時期と体制が異なっており、そのためにわが国のアスベスト問題は第二の水俣病あるいは、エイズ事件の再来といわれるような問題となっているのである。
アスベストは、その形状がきわめて便利なために多用されてきたが、まさにその形状そのものが身体に有害であった。
アスベスト(石綿)そのものは新しいわけではない。わが国では、戦後とくに経済成長期に建設ラッシュの中で安価できわめて便利な建築材料として多用されたことが現在の問題の大きな源である。
石綿は様々な産業で使われてきた。現在、石綿の製造・使用は禁止されたが、これまで使用されてきた石綿の飛散や石綿製品修理にかかわる作業者の曝露、地震時の倒壊家屋からの飛散が問題としてある。石綿の使用量は建築材料が圧倒的に多いため、今後、地震時の石綿を含む家屋倒壊に対してどう対応するか大きな問題である。
昭和61年(1986)には
潜伏期間が長く、自然史が不明
潜伏期間はアスベストの性状から平均30年あるいは38年といわれる。潜伏期間がきわめて長いことは、現状では治療が困難であることと併せて、患者の不安とともに医療側の対応の難しさを増している。今回の特集の他の項でふれられるように、中皮腫についても自然史が依然として不明であり、そのために中皮腫はアスベスト曝露との因果関係の特定が困難になろう。
潜伏期間が長いことはまた因果関係の特定が問題となることを意味している。とくに社会的な背景が大きくなっており、作業現場での作業者のみならず周辺の住民から次々と認定申請が出てきはじめている。
4、選んだ論文の内容と、ビデオの内容から、自分自身で考えたことを、将来医師にな
る目で捕らえた考察
アスベストを原因とする中皮腫は、ほとんど突然のように平成17年(2005)にマスコミを賑わせた。しかし、医学的、環境衛生学的には、そのずっと以前から問題視されていたのである。ビデオでも30年前から危険性はわかっていたと言っていたし,他の国が対応しだす前に安全面から考えてももっと早く対応すべきではなかったかなと思った。また家庭内や周辺、特に職業での曝露によって知らないうちに飛散していることは恐ろしいと思った。医学的に考えて、治療法はなく予防することが大事だと思うので、健康管理を徹底するべきだと思った。
5、まとめ
自分が医学部に入る前から気になっていたトピックスだったので、興味を持って調べることができた。また一から文献をインターネットや図書館を利用して調べることは初めてだったので、将来医師になったときに非常に役立つよい経験ができたと思った。